カフェ雑感 vol.5

6月28日第13回番外日本建築編を最後に、高宮眞介連続講義ーヨーロッパ近代建築史を通して、改めてこれからのデザインを探るーが終了しました。

去年6月から始めたこの連続講義ですが、ルネサンスとマニエリズムを対比的に解説した第1回から、高宮さんの歴史に対する造詣の深さ、多くの書物からの知識と、多くの建築の経験を下敷きにしながら、実践する建築家としての視点から紡ぎ出す言葉、多様で魅力に溢れた言葉を聞きながら、このレクチャーを始めてよかったな、と心からうれしくなりました。

僕自身、高宮さんの講義をガイドラインに、自分の知識、体験、推測、想像を含めて、統合的に理解することができるのではないか、と大いに期待し、それなりの納得もできたように思います。
特に、その建築が生み出された時代を概観しつつこの講義を聞いていると、この500年のヨーロッパ全体を動かしてきた権力構造、政治体制、産業技術、宗教、芸術、哲学、等々の劇的ともいえる変化がもたらす「社会」という背景が、如何に建築に影響しているのか、がよくわかります。

 

高宮さんの講義の特徴は、毎回のテーマに対して2つの対比的概念を掲げ、相関的に解説していくところです。この補助線のおかげで、建築の座標が明確になります。Sein(ザイン)とSchein(シャイン)、など、高宮補助線は独特です。当然ご自分の興味の対象にない建築は出てきません。その一方で好きな建築は度々登場します。連続講義全体で250余の建築が取り上げられましたが、そのどれもが高宮眞介という建築家のバックグラウンドを形作ってきたことに思いを馳せると、高宮さんが生み出してきた、あるいは生みだしつつある多くの美しい建築に、これらの数多ある歴史的建築が繋がっていることに気がつきます。

もしかすると、今回の連続講義の最大の意味はここにあるのかもしれません。

 

7月19日に、全13回の総括を兼ねてクロージングパーティを開きました。その時に受講者全員に、どの時代、どの建築家に興味を持つか、また、今の自分にどう繋がっているのか?という宿題を出して、年表に付箋を貼ってもらいました。最も票が集まったのはミースでしたが、他にもかなり分散しました。逆説的に言えば、その付箋が受講者一人一人に繋がっています。これからどんな建築が生み出されていくのか、それぞれにつながる多様な歴史が、その方向性を決めていく、そのような言い方も可能であるように思います。

あっという間に過ぎましたが、実に充実した1年でした。
改めて、建築家高宮眞介さんに感謝いたします。
すでに講義録があるにもかかわらず、次回のために、1ヶ月間、改めて関連する書籍を紐解き、構成やスライドを何回も修正し、新しく年表や、関係図式を書き起こし、当日に備えて全力で準備してくださったこと、その努力を一言も表に出さずに飄々とカフェにやって来たこと、など僕は知っています。本当にありがとうございました。この1年を通して、ますます尊敬の念が強く、また、ますます頭が上がらなくなりました。なにより、健康でいてくださったこと感謝いたします。

最後の日本編が終わったとき、日本の建築界は、明治以降西洋の思想、技術を取り込むことに専念するあまり、それまで連綿と続いてきた日本的なるものを否定し、むしろ追放してしまった。その中で、そうはいっても、近代以降日本的なるものと建築家はどう折り合いををつけたのか、そのあたりを、何人かの建築家を例に論じてみよう、というような話で盛り上がりました。

もしかすると、このテーマが次の連続講義につながるかもしれません。

 

ご期待ください。

 

 

2014.7.21
飯田善彦

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カフェ雑感 vol.4

今年の横浜は随分と雪の多い冬でした。特に二度目の雪は思いもかけず重く、関内外の並木に相当のダメージを与え、翌日はあちこちで折れた枝がぶら下がり、その処置で根元から伐られた樹木も多く、場所によってはいっぺんに風景が様変わりするほどでした。都会の樹木が弱いのか、冬の嵐が異常に強くなったのか、当然のように電車も止まり、人通りもなく、カフェも臨時休業を余儀無くされ、何れにせよ初めての経験でした。

さて、いよいよ3月29日(土)から、2階を使って、ALC Galleryがオープンします。もともとスペースの使い方として目論んでいたものの、諸般の事情で事務所が拡張していたわけですが、ここにきてようやく整理がつき、ギャラリーが実現できる目処が立ちました。

第一弾は、小野耕石さんの個展です。フライヤーにも書いたように、小野さんの仕事は、シルクスクリーン、つまり版画に属するものですが、その個性は際立っています。10年ほど前に小さな個展を見て以来、他に類を見ない、その強烈な美しさに魅了され、ほとんど追っかけのように見てきましたが、概念、技術を超えてここまで抽象を突出させる作家は、僕の拙い経験とはいえ、見たことはありません。しかも、その作品は、シルクスクリーンという、ある意味で極めてポピュラーかつ限定的な手法から生み出される、逆に言えば、シルクスクリーンという技法でしか得られない、極限的試みの結果現れた世界なのです。

会期は3週間、なにぶん初めてのギャラリーですから緊張もありますが、できるだけ多くの人に見てもらい、小野耕石の世界を経験してもらいたいと思います。

初日に、神奈川県立近代美術館館長の水沢勉さんにおいでいただき、作家と私と3人で対談します。テーマは、「版画の異端は現代的たりえるか」、小野さんの作品を軸にどこまで話が拡がるか、あるいは深まるか、今から楽しみです。水沢さんも相当早くから小野さんの作品を見ていらっしゃるので、より大きな美術の地平でお話しいただけると思います。

中日の4月12日(土)には、小野さんと同世代の美術評論家、建築家、学芸員による対談を設けました。二つのギャラリートークで小野さんの世界をより鮮明にあぶり出すことができるでしょう。

これからも気になっている作家に声をかけ、できるだけ定期的に展覧会を開きたいと考えています。皆様に足を運んでいただき、カフェ同様、豊かなひと時をお過ごしいただければ幸いです。

 

2014.03.14
飯田善彦

カフェ雑感 vol.3

皆様お変わりありませんでしょうか、寒中見舞い申し上げます。
年が変わってなんとなくぐずぐずしてるうちにもう1月も終わろうとしています。

昨年末には自主企画である建築家髙宮眞介さんによる連続講義もちょうど半分を消化し、20世紀初頭、激動の社会状況に反応するように様々に展開したモダンデザインの黎明期を俯瞰するところまで来ました。1月はいよいよコルビュジェ、ミースが登場します。

劇団空(utsubo)による芝居も三部作を終え、もしかすると次の展開もあるかもしれません。コンサートも今月18日に年初に相応しいお琴の演奏で、もうすぐ3年目を迎えます。

また、もう一つの自主企画であるALC CINEMAも去年4回を数えました。今年も継続しますが、初回は今までにない試みになります。1月31日、2月1・2日の三日間、吉田町で「吉田まちなか映画祭2014」というイベントが開かれるのに合わせて連動する企画です。2月1日はカフェを貸して吉田町による東陽一監督による「酔いが覚めたら、うちに帰ろう」という映画+トークショー、翌2日はALC CINEMA第5回、冨永昌敬監督、「ビクーニャ」を上映します。2002年に作られた36分という短い映画ですが、2002年水戸短編映像祭グランプリを受賞しています。監督自身も言葉で表現できないほど・・な映像と聞いているので僕自身楽しみですが、さらに、なんと対談のゲストに建築家鈴木了二さんが来てくれます。まさに新春に相応しい豪華企画となりました。鈴木さんは僕が敬愛する素晴らしい建築家の一人ですが、ご承知のように優れた映画批評家でもあります。ALC CINEMA初見参、皆様ご期待ください。

もうひとつ、今年からカフェでの催しの他に、2階を使ってALC GALLERYをオープンさせたいと考えています。京都関連の仕事を京都三条の分室に移したので2階の一室が空きました。年末ようやく片付いたので当初から考えていたギャラリーをとりあえずやってみよう、と例によって決心したわけです。ギャラリーといっても貸しギャラリーではなく、僕が気になっている若いアーティストに場所を提供し、少しまとまったexhibitionをアーティスト自らの手で企画する試みです。小さなスペースですから量の、あるいは巨大な展示はできませんが、創造都市横浜の発信拠点のひとつになれば面白い。その第一弾として、小野耕石さんという若い版画家の展覧会を開きます。版画といっても今までの概念を大きく変えた仕事をしているアーティストです。開催中作家を交えてのシンポジウムなどALC CINEMA同様ここでしかできない企画を催していきたいと考えています。

今日は大寒です。これからまだまだ厳しい寒さが続きます。皆様どうぞお変わりなくお過ごしください。

今年もArchiship Library&Cafeをよろしくお願いいたします。

 

2014.01.20
飯田善彦

追伸
新建築住宅特集1月号に「私の事務所」というエッセイ、カフェのいきさつを書いたので興味のある方はご一読ください。

カフェ雑感 vol.2

1月に始めた自主企画「ALC CINEMA」も回を重ね、先月第3回を終了しました。若手映画監督のデビュー作品を上映するだけでなく、当の監督をお呼びして、上映後ゲストとの対談や観客との応答など、とにかく狭い空間を逆手に、親密度の高い、他ではまずありえないような試みです。
防音サッシュとはいえ街の音はやはり時折聞こえるし、スクリーンにプロジェクターで投影する手作り感満載、毎回ハラハラすることばかりですが、第1回の瀬田なつき監督は、終わってから、観客とのあまりに近いやり取りが始めての経験で良かった、と若干興奮気味に話してくれましたし、第2回の濱口竜介監督もゲストに呼んだ建築家の中山英之さんともども結構盛り上がってました。(中山さんからは後からべたぼめのハガキまでいただきました。)先月わざわざ大阪から来ていただいた安川有果監督は、やはり観客のダイレクトな反応に戸惑いながらも楽しんでくださいました。皆さん少ないギャラにもかかわらず、忙しい中を快く引き受けてくださり本当に感謝しています。
当然ですがいずれの作品も監督の個性全開、低予算でありながらよくそこまで作り込んだなと思わせる力作ぞろいで、僕はもちろん初見ですが、昔二十歳前後に名画座に通い夢中になって手当たり次第に観たヌーベルバーグやイタリアンリアリズム、アメリカンニューウェーブ、日活や東映の映画の数々に通底する感覚を久しぶりに呼び覚まされています。トークで語られる裏話や観客の鋭いツッコミ、など毎回驚かされることも多くじつに面白い。ぜひ皆さん見にきていただきこの臨場感を体験してください。僕はこの企画では裏方に徹しているつもりですが、つい出しゃばって質問したりしてしまいます。次回は11月、やはり興味深い若手の作品を予定しています。ご期待ください。

実はこの映画上映に並行して映画論、歴史など座学的な講座をやりたいと考え、横国大の梅本さんならその企画もこの場所も気に入ってくれるだろう、と思い、相談しようとした矢先に何とご本人が急死してしまいました。これには本当に驚いたし、一緒に遊べなかったことが残念で残念でしようがありません。
この時やろうとした継続的な講座という思いつきが6月から始めた現在進行中の高宮真介連続講義につながっています。カフェを始めて以来本業である建築に関わる企画をどうしようかと時折考えていたのですが、なかなかいいアイディアが浮かばずしばらく放っておきました。たまたま八雲の現場近くにある高宮さんの事務所に伺って話をしていた時、日大の教授時代にデザイン論を特別講義していた話題になり、資料を見せてもらっていた時ピンときたわけです。
講義の内容は、ルネッサンス以降の近代建築史を高宮さんなりに展開した内容ですが、この幻の講義をカフェで再現してもらいたい、とその時強く思った次第。デザインの羅針盤が揺らいでいるこの時期に、近代建築史をもう一度おさらいするのは悪くありません。
高宮さんは、谷口さんと共に僕のキャリアの中で唯一のボスですが、同時に敬愛する建築家の一人です。端正でありながらアイディアに富むデザインは、美しいだけではなく質の高い日本モダニズムの好例であることは皆さんご存知の通りです。そのような建築を作り続けている第一線のモダニストが語る近代建築史、建築論が面白くないはずがありません。すぐに企画にとりかかり、高宮さんの同意を得るのにさほど時間はかかりませんでした。
この企画のミソは、参加者を30人に限定して、1年間スクールあるいはサロンのように講義を進めることと、学生もキャリアもリタイアも素人も差別なく参加料を一律2万円としたことです。発表から申し込みまでさほど時間がなかったのですが、蓋を開けてみたら開始時間にすでに30人を超過し、あっという間に100人を数えました。仕方なく勝手に抽選させていただきましたが、落選された方には本当に申し訳なく思います。この場でお詫びいたします。
6月に初回ルネサンスから始まり先月3回目が終わったところです。バロック以降新古典主義、ルドゥー、シンケルなど僕自身よくわからない時代の建築群も新たな視点で発見的に俯瞰できました。3回を通して背景となる社会との関係等、以前には捉えられなかった見方も実感し、予想以上に新鮮な興奮を経験しています。これからいよいよ近代の核心に向かう、充実するであろう講義が楽しみです。連続講義全体を最終的に出版物にまとめたいとも考えています。

4月には吉田町のアート&ジャズという車を止めてのメインイベントに合わせて、「アート&骨董マーケット」を開催しました。僕たちは食べ物の屋台こそ出せませんが、この魅力的な町内イベントに賛同した企画です。以前から時々楽しみで骨董市に通っていますが、その内容は実に多彩です。沢山の出店者の中でも僕自身の興味に近い、気になっていた若いディーラーに思いきって声を掛けたのですが、皆さん二つ返事で集まってくださいました。2日間のイベントで、しかも両日とも異常に寒く、雨混じりの天気だったにもかかわらず何と一日当たり300人近い方たちが来場してくださり、予想をはるかに超えた興奮の二日間でした。このイベントは、この秋、11月1,2,3日、「関内外OPEN!」に合わせて第2回目を開きます。しかも前回の参加者に加え、その世界では名の通った3組が加わり更にパワーアップします。これも継続するのでご期待ください。

長々と書いてきましたが、音楽会や花と食ワークショップも継続していますし、最近3日間カフェをお貸しした演劇など新たな催しも加わり、振り幅も広がっています。スタッフの学生も4代目になろうとしています。これからも思いついたことをためらわず実践していきたい。
是非皆様の周辺にArchiship Library&Cafeをお知らせください。最新の「散歩の達人」横浜、「Hanako横浜特集」にも掲載されているのでご覧ください。

2013.09.10
飯田善彦